6.【図工】【美術】児童・生徒の主体性を引き出す授業のコツ

フクイ

ようこそ。コガタナラボへ。

さて、普段大学では学生に題材を設定するポイントなどを授業で伝えています。
授業をつくる上で大切なことはいくつかあります。
その中でも僕が「これだけは外すな!」と口酸っぱくゆうてるのが、「その授業を児童・生徒はやりたいと思えるのか?」ということです。

つまり、その授業で児童・生徒の【主体性】を引き出せるのかどうか、ということです。

この【主体性】は「やる気」や「意欲」と置き換えてもいいですね。

ここだけは教員主導でどうにかなるものではなく、児童・生徒自身が「やろう」と思ってくれないとどうにもならない。

実は、「やる気」を持たせる工夫は難しいことではありません。

1.題材の分析(伸ばしたい資質・能力の整理、ねらいの絞り込み)
2.「遊び心」を混ぜ込んだ授業にする。

この2点です。

今回は図工・美術の基本的な授業の考え方を振り返りながら、【やる気】を引き出す題材設定について解説していきます。

どうやったら【やる気】を引き出せるのか悩んでいる人は必見です!
それではいってみましょう〜

目次

何故、主体性が重要なのか

“主体性”=“やる気”です。

そして、受動か能動かで言えば、能動です。

自らやろうとしているか?ということです。

なぜ、ここまで「やる気」にこだわるのか。

題材研究をしっかりして準備を万全に整えても、学習児童・生徒の「やる気」を引き出せなければ、その授業での学びは半減するからです。

脳科学者の池谷裕二氏が対談の中で面白いことを発言していました。

ある事実なり情報なりを知るとして、
授業かなんかで受動的にそれを知るときよりも、
自分が身体を動かして
積極的にその情報を得に行ったときのほうが、
脳が敏感に反応するんですよ。

ほぼ日刊イトイ新聞、「やる気」と「脳」の話を、池谷裕二さんと。 脳の気持ちになって考えてみてください。第5回 2010.10.01より抜粋

ネズミの実験を鵜呑みにすると、半減どころか10倍も違ってくる。

つまり、やらされて受動的に取り組んでいる時よりも、児童・生徒が自ら「やりたい」と思って能動的に活動に取り組んでいるときのほうが、脳は敏感に反応するんです。

だから、「やる気」を引き出す工夫が大切なんです。

児童・生徒が自ら「やりたい」という気持ちが出てこないと、新しい気づきを得ることはできません。

ましてや、どんな表現にしようか、なんて自分なりの工夫をしようとも思いません。

逆に言えば、やる気があれば勝手に学ぶし、勝手に工夫します。

そうです。

「やる気(主体性)」を引き出すことができれば、教員が頑張らなくとも児童・生徒が勝手に学んでいくのです。

省エネ授業です。

SDGsです。(違うかw)

「それができれば苦労はしない」という声が聞こえてきそうです。

でも難しく考える必要はありません。

それをこれから解説していきます。

そもそも図工・美術は作品をつくること自体が目的ではない

まずはそもそも論から。

そもそも図工や美術は作品をつくること自体を目標としていません。

いきなり何を言うのか!?と感じる人もいるかもしれませんね(^_^;)

時間のある人は、図工や美術の教科目標をご覧ください。

【図画工作科の教科目標(平成29年度告示 小学校学習指導要領解説 図画工作編)】
(P.9中程の枠の中)
【中学校美術科の教科目標(平成29年度告示 中学校学習指導要領解説 美術編)】
(P.9中程の枠の中)

図工や美術では作品をつくる活動やみる活動を通して、以下の3つの観点から児童・生徒の資質・能力を伸ばします。

・知識及び技能
・思考力・判断力・表現力等
・学びに向かう力、人間性等 ←主体性にかかわる資質はココ!

授業の構成を図で表すとこんな感じです。

つまり、図工や美術の授業は、つくったり、あらわしたり、みたりすることを通して、児童生徒の資質を伸ばしていくものといえます。(少なくとも僕はこのように理解しています)

作品をつくるのは手段であって目的ではありません。

だから、造形遊びのように目に見えた作品として形が残らない場合でも授業が成立するのです。

ここで押さえてほしいのは、図工は飽くまでも活動を通して諸処の資質・能力を伸ばしていくことが重要であるということです。

この資質・能力は教員が「えいや!」といって飴菓子のように伸ばせるものではありません。

児童・生徒の「主体性(やる気)」次第で、伸び率が変わってきます。

だから、まず何よりも児童生徒が「やりたい」と思える題材を設定することが求められるのです。

次にその具体的な方法について言及していきます。

児童・生徒の「主体性」を引き出す題材設定のコツ

何も特別なことをする必要はありません。

上述の通り当たり前のことを丁寧にやるだけです。

1.題材の分析(伸ばしたい資質・能力の整理、ねらいの絞り込み)
2.「遊び心」を混ぜ込んだ授業にする。

現職教員の皆さんは普段から考えていることです。
・・・たぶん。・・・おそらく。・・・そうあって欲しいw

学生の皆さんはこれから考えるようにしていきましょう(^_^)

ここからそれぞれの項目について解説していきますね。

題材の分析とは?

題材の分析とは、その題材のねらいを整理することです。

・何故、この題材をするのか。
・この題材をすることで児童生徒のどんな力が伸ばせるのか。
・この題材の楽しいポイントはどこか。
・題材を通して児童生徒に経験して欲しいことは何か。

ここらへんのことを掘り下げておくとその題材のポイントが見えてくるのではないでしょうか。

特に「何故この題材をするの?」という視点は、欠けていることが多いので考える癖をつけましょう。

教科書に載っているから、前任の先生がやっていたからという受け身の答えではありません。

児童・生徒の実態から、この題材をすることで、児童・生徒のこんな資質・能力が伸ばせるのではないか、活動でのこんな姿が期待できるのではないか、ということを自分の言葉で考えるのです。

もっとフランクに言えば、「ここがすっごい面白いからやるんです」という感じでしょうか。

指導者本人が面白いと感じているものでないと授業すべきではない、と僕個人では考えています。

そして、その面白さは難しく考えなくていいと思います。

例えば、

・テーマに沿って子ども自身の「世界」が広がるから面白い
・「動き」から子どもそれぞれの発想が生まれやすいから面白い
・色の塗り方や形の違いが出てくるから面白い
・初めて使う道具や材料だから面白い
・作品に対する見方や感じ方がガラっと変わるから面白い

など、どこに指導者自身が面白いと感じる要素があるのかを分析するのです。

教員の「楽しい」雰囲気は児童・生徒に伝わりますから。

何故この題材を指導者がしたいと思ったのか、ここを言語化しておくと考えが整理できますね。

指導案を書くことはこうした思考の整理にも役立ちます。

ねらいをしっかりと定めてしまえば、次の段階である授業方法を柔軟に考えやすくなります。

まずは、ここを徹底することです。

「遊び心」を混ぜ込んだ授業とは?

やろうとする題材のねらいが決まったら、次は児童生徒の「主体性(やる気)」を引き出す仕掛けを考えます。

児童・生徒の【やる気】をどう引き出すか。

そのポイントは「遊び心」を持つことです。

授業者の多くは「学習」や「勉強」という言葉の先入観に囚われて、授業内容に柔軟さに欠けてしまう傾向にあります。

「図工は勉強だからこうしなければいけない」
「この時間にどんなことを学習させるか」
「真面目にしなければ授業ではない」

など、先入観でガチガチになっている。(個人の感想ですw)

それは学生も同様です。

だからこそ、
もっと遊びましょう。
もっとふざけましょう。
もっと楽しみましょう。

題材の“ねらい”さえ外していなければ、やり過ぎるくらいがちょうどいいと思います。

僕個人としては、図工や美術はこの時代に必要不可欠だと心から思っています.

でも入試制度だけをみると、図工や美術は中心科目でもなく、良くも悪くも他の科目よりも注目されていません。
(自虐に走っているわけでありませんw)

でも、それは悪いことだけではないと思います。

注目もされていないならせめて、自由に楽しく振る舞おうよ、と。

義務教育だからこそ、図工・美術を通して、つくったり、あらわしたり、みたりすることの面白さをほんの一握りでもいいから体験して卒業していって欲しいと考えています。

もう一度言います。

もっと遊びましょう。
もっとふざけましょう。
もっと楽しみましょう。

題材分析を通して押さえておきたいポイントを押さえておけばどんな方法で実施しても問題ありません。

「でも「遊び心」を持つってどういうことかわかりません」

という人もいますよね。

そこで、次に美術科の教材に古くからありがちな「手の模刻」を例にして、僕が考える「遊び心」の具体例を示していこうと思います。

中学校美術科「手の模刻」再提案

手の模刻。

これは古くからある題材です。

数年前に学生が教材研究をしてそのまま大学に放置していった作品

写真のように自分の手を粘土で再現します。(多くは粗品のツッコミのような手になるw)

今回、「手の模刻」を取り上げたのは、たまたま学生が中学校の教育実習で実施した授業だったから、というだけです。
(ちなみに、これは生徒や実習での授業を批判するものではありません。)
(手の模刻の題材を否定するものでもありません。)

この題材では「感情を手で表す」ことが課題とされていました。

手の模刻を初めて体験する生徒が多い中、そこに「感情」を表現するとなると、僕はかなり高度なことを要求する授業だなという感想を持ちました。

しかし、実習の授業では、実習生も授業を受ける生徒も一所懸命に取り組んでいる姿が見られたので、授業としてはこれもひとつの正解だったと思います。

では、僕ならどうするか。

ますは、題材のねらいを分析してみましょう。

「手の模刻」の題材のねらいを考える

端よりましたが、ザッとキーワードと観点を合わせるとこんな感じでしょうか。

立体の捉え方や表し方への理解(知識および技能)
  →手をよく観察して形や厚みを表す
粘土の特性の理解(知識および技能)
  →粘土の扱い方や乾燥などの特性に気付く
立体造形の工程への理解(知識および技能)
  →芯材を使った表現技法の経験
立体の表し方の工夫(思考力・判断力・表現力等)
  →手の形、粘土の特性、技法などから自分なりに表現を工夫する
友だちの作品からの気づき(思考力・判断力・表現力等)
  →自分にはないアイデアやいいなと思う表現方法に気付く

そして、ここに「遊び心」を入れてみましょう。

この「遊び心」が【学びに向かう力、人間性等】の観点になる”主体性(やる気)”に直結します。

「遊び心」は題材のテーマに入れるのが考えやすいと思います。

必殺技で悪を懲らしめる!

僕ならこんな感じにします。

「領域を展開してもいいよね」

芥見下々 『呪術廻戦2巻』「第15話 領域」より抜粋

「両面宿儺」

芥見下々 『呪術廻戦4巻』「第30話 我儘」より抜粋

「魔貫光殺砲を撃ってもいいよね」

鳥山明 『DRAGON BALL17巻』 「其之二百四 さよなら孫悟空」より抜粋
鳥山明 『DRAGON BALL17巻』 「其之二百四 さよなら孫悟空」より抜粋
鳥山明 『DRAGON BALL17巻』 「其之二百四 さよなら孫悟空」より抜粋

「気円斬を出しているクリリンが好き」

鳥山明 『DRAGON BALL19巻』 「其之二百二一 窮鼠 猫を咬む」より抜粋

「どどん波を忘れて欲しくない」

鳥山明 『DRAGON BALL10巻』 「其之百二十 なんとどどん波」より抜粋

「どーん!!!!!」

笑ゥせぇるすまん 公式チャンネルデジタルリマスター 『笑ゥせぇるすまん(20)』「初恋の人」より抜粋

これは有名な漫画やアニメの「呪術廻戦」や「DRAGON BALL」「笑ゥせぇるすまん」です。

つまり、漫画の必殺技などの手の形を持ってくるというだけです。

生徒の興味がありそうな漫画を取り入れることで、【主体性(やる気)】を刺激できるのではないかと考えたのです。

生徒が魔貫光殺砲をしながら制作している絵づらを見たいだけという説もありますがw

生徒の実態にもよるのでその効果を断言はできませんが、このテーマでも上記の「ねらい」は十分に達成できると思います。

世界のタブーを大胆に表現

あと、もう一例。

世界のタブーなジェスチャーを表すのも面白いw

日本では問題ないけど、とある国ではタブーなジェスチャーというのが存在します。
例えば、ピースサイン。


ギリシャでは相手を侮辱するサインにとられるようです。

そして、親指を上に向けるジェスチャー。

これは、日本やアメリカでは「いいね」という意味で捉えられていますが、アフガニスタンやイランなどの中東などでは「くそくらえ」的な意味にとられてしまいます。

このような世界のタブーなハンドサインを課題にしても面白い。

タブーだからこそ燃えるw

もう少しまじめにするなら、多様化する社会の中で、世界と日本の違いに言及するという学習として有効な題材とすることも可能です。

気難しい保護者や同僚にはこのように説明しましょう。

ただその際は、「タブーなハンドサインが一堂に会するのが見たいだけ」という心の声は出さないでくださいねw

このように、題材のひとつひとつを分析した上で、「遊び心」をいれてみる。

それだけで、児童・生徒の【やる気】はガラッと変わります。

教員自身の「楽しさ」も変わります。

学習とか勉強とか真面目な感じの先入観を捨てる。

そして、児童・生徒に【やる気】を持たせる「遊び」を入れる。

そのためには、教員の柔軟な発想が必要になりますね。

まとめ

いかがでしたか?

今回は「【主体性(やる気)】を引き出す工夫をするためにも、もっと遊びましょう!」ということが伝えたかったことです。

だってそのほうが10倍も学習効果が上がるかもしれないのですから。

もっとふざけましょう。

それも、題材のねらいをしっかりと踏まえた上で。

ただ、上記の事例はまだ実践していないので、興味のある人に是非実践してもらいたい。

そして、どうだったかコメントして欲しい。

児童・生徒の【やる気】さえ引き出せればその授業は半分以上成功したといえます。

でもここの工夫が疎かになりがち。

現職教員の方々には、ただ前任の先生がしていた授業を淡々とこなすのではなく、題材の特徴を再度分析して、自分なりの工夫をつけてもらいたい。

これから教員を目指す学生には、教科書やインターネットに掲載されている題材をただ踏襲するのではなく、自分で題材を分析した上で遊んで欲しい。

教育現場は、多忙とストレスを極めているからこそ、授業に心のゆとりがあればいいなぁと願うばかりです。

遊び心をくすぐる題材が増えると、図工・美術はもっと楽しくなる。

個人的に振り切った授業をみてみたいというだけかもしれんけどw

今回はここまで。

最後までお読みいただきありがとうございました。

【参考文献】
・小学校学習指導要領〔平成29年告示〕解説 図画工作編
・中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 美術編
・芥見下々 『呪術回戦』 集英社
・鳥山明 『DRAGON BALL』 集英社
笑ゥせぇるすまん 公式チャンネルデジタルリマスター
All About編集部、「All About 旅行」、『してはいけないジェスチャー!海外で使用NGジェスチャー11選』(2023/02/22閲覧)
松村知恵美、「LIVE JAPAN PERFECT GUIDE」、『【危険度別】海外で外国人にやってはいけない9のハンドサイン。日本語教師に聞いてみた』(2023/02/22閲覧)

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