ようこそコガタナラボへ。フクイカズマです。
今回は僕が大学の授業で実施している「コロタマコースター」という題材を紹介します。
必要な材料も段ボールなど身近なものばかり。
もちろん、小学校や美術科での題材でも応用は可能です。
小学生から社会人まで幅広く楽しめる題材なので社員研修等に使っても面白い。
この記事では、
コロタマコースターとはどんな題材か
どんな学びの可能性を秘めているのか
大学等での実際の活動の様子
コロタマコースターを授業でする際のポイント
といった内容を徹底解説していきます。
それではいってみましょう〜
コロタマコースターとは?
簡単にいうと、段ボールでビー玉を転がすコースをつくるというものです。
めっちゃ単純。
しかも、図工の教科書などにもあるメジャーな題材。
ただ、個人の活動ではなくグループで大きなものをつくるという点が違います。
概要は下記の通り。
- 題材名:コロタマコースター
- 準備物:段ボール
転がすタマ(※)
布ガムテープ
段ボールカッター
はさみ
※僕の授業ではビー玉(小さいもの約30個と大きいものを約10 個)とピンポン球(約10個)をグループごとに振り分けて使っています。 - 内 容:
・本活動はグループ活動で行います。
・1グループ(4人くらい)。
・提示する5つのルールに従って、与えられたタマを転がすコースをつくる。
・まわりにある環境は原状復帰ができるなら何を使用してもよい。
例:椅子・机・木材・ホワイトボードなど
・コロタマコースターは大学の授業(90分)の中で実施しています。
・10分活動説明、60分活動、10分鑑賞、10分後片付け
コロタマコースターの学びを深める5つのルール
本活動は学びを深めるために5つのルールを設定しています。
- スタートとゴールをつくる
→授業最後に転がっているところを鑑賞するので、始まりと終わりを明確にする - タマが時間をかけて転がるようにする
→コースの工夫(距離・傾斜・障害物など)を促す - (途中で)落ちない・止まらない
→構造の形状や強度への意識 - 与えられたタマは一斉に転がす
→難易度を上げる(不測の事態が起こりやすい) - 制限時間は60分
→「つくりながら考える」造形プロセスを促す
これらのルールは、学生に活動のねらいを達成してもらうための工夫です。
これがあることで、活動をすぐに終わらせてしまったり、活動を深められなかったりすることが大幅になくなります。
特にこの活動で肝となるルールについて解説してみましょう。
タマが時間をかけて転がるようにする
このルールがないとどんなことが生じるか。
それは、「活動をすぐに終わらせてしまう」ということです。
図工や美術の授業で僕が最も恐れていることは、すぐに終わらせようとする輩たち笑
活動のペースが遅い人よりも、ちゃちゃっと終わらせる人のほうが怖い笑
だって、授業者としての大人の都合というものがあるからね。
その授業時間を持て余さずに時間いっぱい活動してほしい。
以前、高校で美術科の非常勤講師として粘土の授業をしたことがあります。
一人ひとりに粘土を配布して、手びねりで自由につくるというもの。
そこで、ある生徒が配布した粘土(直方体)をそのまま「豆腐です」といって提出してきた。
活動開始から1分もたたずに提出。
「自由につくって」と言った手前、確かに「豆腐」でもありなんやけど。
僕としては、粘土に触れて試行錯誤することを想定した授業やったのに。
そのときに、授業者側に授業のねらいがあるなら、対象者がそのねらいをやらざる得ない状況を設定しなければならないことを学びました。
「自由につくりましょう」だけでは何も深まらない。
結局、その生徒にはイロイロと屁理屈をこねながら説得した記憶があります。
最終的には「豆腐」が「黒電話」になりました笑
だから、授業者は対象者に活動の中でしてほしいこと(ねらい)をしっかりと絞り込んで、それを自然な形でできるような設定をすることが大切。
制限時間60分
このコロタマコースターは大学の授業の中では、「つくりながら考える」造形プロセスの理解を深めるというねらいをもって実施しています。
(「つくりながら考える」造形プロセスについてはコチラをご参照ください)
制限時間を設けることで、じっくり考える時間をあえてつくらせない。
時間がないから、すぐにでもつくりながら考えざるを得ない状況を生み出しています。
じっくり考えると、設計図を描いたりしてイメージを固めてしまいます。
そうなると、そのイメージに囚われて柔軟な対応ができなくなります。
また、自分が出すアイディアなんてたいしたことない・・・
と思っている人の多いこと。
自分に自信が持てないのかもしれません。
でも、「自分のアイディアなんてたいしたことない」という自信はある笑
気持ちはよくわかるけどね。
でも他者からみたらその意見が目から鱗になることがあることも事実。
時間を短く設定することで、「他者にどう思われるか」という意識を持ちにくくしています。
使う材料や道具の工夫
準備物は上述の通りです。
できるだけシンプルにしています。
段ボールカッター
これは小学校でもよく使われているので、使う経験をしてもらう意図もあります。
小学生が段ボールカッターを使用していて怪我をするところをまだ見たことがないけど、大学生はたまに怪我をします笑
だから、この機会に使い方や怪我をしやすいパターンを説明します。
布ガムテープ
図工や美術科では、ガムテープやセロハンテープはあまり使われません。(と、僕は思っています)
木工用ボンドとか何らかの接着剤が多いような気がする。
恐らく、仕上がりが雑に見えてしまうから・・・かな?
コロタマコースターは仕上がりの美しさよりも、タマがちゃんと転がる構造をつくりあげることを重視しています。
しかも短時間で。
なので、閃いた発想をすぐに試せるようにしたい。
イメージを即座に形として反映させるための布ガムテープ。
接着剤は固定して乾燥する時間が必要となるのでこの活動には不向きです。
タマが転がれば見た目なんかどうでもいい。
でも、布ガムテープの接着が雑だとタマは転がりません。
段ボールの重ね方や折り方、切り方などが雑でも転がりません。
途中で止まっちゃう。
布ガムテープがピンポン球ホイホイになることもある笑
だから、タマを転がすことを考えれば、結局丁寧に作業をせざるを得ないのです。
うまくできてるな〜笑(自画自賛)
ちなみに、普通のガムテープは重ねて貼ることができません。
ビニール系のものは手で切りにくい。
なので、使うなら重ね貼りができて手で簡単に切ることができる「布ガムテープ」がオススメです。
コロタマコースターの授業実践
大学での活動状況はこんな感じです。(2023年4月実施の活動)
2016年に小学校6年生を対象として実施した活動はこんな感じ。
コロタマコースターが秘める学びの可能性
とある年の授業で、活動を終えた学生のコメントは以下のようなものでした.
「つくりながら考える」造形プロセスに関するコメント
- 最初はイメージできなかったけど、つくっていくうちにドンドンイメージが出てきた。
- とにかく手を動かすことが重要で、段ボールを使ってたくさん試すことで次のアイディアを探すことにつながった。
- どのように作っていくか、とりあえず手を動かして活動していってゴールが見えてくると実感しました。
- 時間制限もあったので、思いついたアイデアは即実行というのが、どんどんアイデアを生み出すと思いました。
- 最初は何をつくろうかイメージも湧いていませんでしたが、グループでつくっていくうちにあれこれアイディアが浮かんできて、図画工作のおもしろさを感じることができました。
- 初めのうちはあまりイメージが分からず、何をしたら良いか分からなかったが作っていくうちに、作りたい形ややりたいことがどんどん出てきて楽しく興味深い活動になった。
造形の工夫に関するコメント
- ピンポン球とビー玉とで転がり方や跳ね方のちがいで班ごとのコースのつくりの違い、スケールの違いなどが感じられた。
- ビー玉の音がすごくきれいで目だけでなく耳で楽しむ図工ってのもあるのかなぁと考えました。
コミュニケーションに関するコメント
- グループ活動にすることで、みんなで共通の目的をもちコミュニケーションを図ることができた。
- それぞれもっているアイディアが相乗しあい、1人のアイディアでは作れないおもしろい作品がつくれることを実感した。
「つくりながら考える」造形プロセスの実感
コメントにもあるように、最初はイメージやアイディアがないと感じている人が多い。
でも、とにもかくにもつくり始めることで新たなイメージやアイディアが浮かびやすくなります。
これを学生が実感することが大切。
図工や美術の時間では、イメージが浮かばずジッと考え込んでいる児童・生徒の姿をみることがあります。
そのときは、まず手を動かすように言葉がけすることも支援のひとつ。
身体を動かすことによって脳は刺激を受けます。
視覚だけでなく触覚、聴覚もイメージを生み出す源になる。
もちろん、学生のつくる力の向上にもつながりますが、このことを活動を通して実感をしていると、児童・生徒への声かけや支援の幅が広がります。
コミュニケーション力の向上
この活動をすると必ずコミュニケーションについてもコメントにあがります。
グループ活動なのでコミュニケーションを取らざるを得ないから。
苦手とか言っている場合ではない笑
だから、活動の際には「この時間だけでいいから大人力を発揮するんやで」と茶化しながらコミュニケーションを促します。
コミュニケーションに苦手意識を感じている学生は少なくありません。
だから、意見が採用されたり、みんなから認められたりすると嬉しい。
そして「どんな意見を言っても大丈夫」という安心感が生まれる。
そうすると、コミュニケーションがより円滑になる。
一人では決してできない活動だからこそ、自然とコミュニケーションをとる機会が増えるのです。
教員がただ「仲良くしましょう」といってもできない。
同じ目的(コロタマコースターの完成)を持つことで、会話が生まれやすくなるのです。
そして、自分のイメージやアイディアを相手に伝える工夫も生まれます。
特にイメージは頭の中で映像として浮かびます。
その時点ではまだ言語化されていない。
そこを言語化するだけでなく、相手に伝わるように伝えるという工夫も必要となります。
コロタマコースターを授業実践する際のポイント
では、実際に授業をするならどんなことに気をつけておけばいいのでしょうか。
安心感のある空間づくり
まず、この活動では題材目標や評価規準に関係なく、自由にアイディアを出し合うことが大切なポイントになります。
なので、活動をする雰囲気が自由に発言してもいいと思えるものになっているかどうかを確認しましょう。
何を発言しても否定されないという安心感ないと柔軟なアイディアなんて生まれません。
リラックスした雰囲気をつくるのは教員の仕事です。
まぁ、図工・美術全般にいえることですけどね。
だから、活動の際に僕はテンション上げ上げでいく笑
そしたら自分も楽しいからね。
指導する側が楽しむこと。
これがこの活動を成功させるポイントです。
だから、活動後の学生はヘトヘトになってる笑
テンション上げ上げの僕もヘトヘトになる笑
コロタマコースターの対象学年
本活動は年代を問わず楽しめますが、小学校低学年以下では難しい。
低学年の児童では、転がす機能を持たせた造形物をつくることや、道具や材料を扱う手の巧緻性がまだついていかない。
実際に、ある児童クラブで低学年を対象として実施した経験があります。
そのときは、その児童クラブの卒業生(中学生と高校生)数名がサポートに入ってくれました。
低学年の児童は「タマが転がる動き」からコースのイメージをするのが難しそうな様子でした。
むしろ、その中学生や高校生が真剣になって取り組んでいた笑
もちろんサポートもしてくれてましたが笑
なので、早くて中学年、無難なところで高学年以降が適していると思います。
高学年以上であれば社会人でも現職教員でも十分に学びを深めることができます。
もちろん、指導者によってねらいのポイントは変わってくるかと思います。
飽くまでもひとつの例として捉えてもらえると嬉しいです。
コロタマコースター小学校中学年での評価規準
ちなみにこの活動を小学校中学年の「工作に表す活動」として3観点を書くとこんな感じになります。
これは、3観点をもとに書いています。
なので評価規準や題材目標もこれに連動することになります。
などを主軸とした活動としています。
上記の他にも、
道具や材料を使う技術の向上
立体物を構築する経験
試行錯誤と問題解決の連続
周りの環境を使う思考の柔軟性
総合的な対応力の育成
など、学びが多い活動です。
どこにねらいを定めるかは指導者の好みや児童の実態によって柔軟に対応できます。
自分でするならどんな授業にするのか想像を膨らますのも楽しいですね。
コロタマコースターの評価
授業の評価は、他の授業と同様です。
評価規準にそってA・B・Cでつけます。
概ね、全員がBになるように。
Cにならないように支援をしていくのが教員の役割です。
Aをつけるのは、個人評価になるので、児童の実態によりけりです。
それまでグループ活動や立体物の制作を苦手としていた児童が積極的にとりくんでいたり、授業後にも自分なりにコースターをつくっていたりしたときなどはAになるかと思います。
評価は児童の実態に大きくかかわっていくので、ここではっきりと断定できることはできません。
全員がB以上になるように、児童の実態に沿った個別の支援をする。
これは図工・美術のどの活動でも共通しています。
そして、極端な話、作品が完成しようがしまいが関係ないのです。
児童一人一人が、「タマの動き」から発想を広げているか、コースを自分なりの工夫で表そうとしているか、その点を見取ることが評価となります。
なので、ロイロノートなどを活用して、活動の様子を写真で記録したり、児童の感想などをまとめておいたりすると評価は格段にしやすくなると思います。
まとめ
いかがでしたか?
「コロタマコースター」をやりたくなりましたか?
グループ活動で大きな作品になるから、小学校や中学校では気軽にできないケースもあるかもしれません。
でも、おもしろいから何かの機会に是非やってみてください。(強引か笑)
転がすタマの種類によって、コースの工夫の違いが生まれます。
同じ目標を持って取り組んでも、グループごとに取り組み方が違います。
ピンポン球がポテポテ転がっている姿を見ていると「がんばれ!」って声が出てしまう笑
ビー玉が転がる音も迫力がある。
やってみないとこの面白さは伝わらないのが悔しい笑
今回はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました!
【参考資料】
・福井一真、2017、「図画工作科における「つくりたいものをつくる」活動に関する研究Ⅱ—「つくりながら考える」造形プロセスについての考察—」、『美術教育学研究49号』、pp.345-352
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