7.【美術】中学生の主体性(やる気)を引き出す「色相環」の授業

フクイ

コガタナラボへようこそ。フクイカズマです。

皆さんは「色相環」をご存知でしょうか?

僕が最初に知ったのは中学生だったときの美術の授業だったと思います。

今から30年近く前になるのかな。

「色相環」はややもすると、色の知識を詰め込むような授業になってしまいがち。

実際に僕が受けた授業も、学生からきく話でも知識を記憶するという印象があります。

明度・彩度・寒色・暖色・補色などなど。

筆記試験にもしやすい題材だから、どうしても暗記作業になってしまうのもよくわかります。

でも、実は「色」ってめっちゃ面白い。

その魅力を生徒にも伝えることができれば、ただの知識詰め込みの授業から脱却できること間違いなし!

知識の詰め込みが受動的であるとするなら、主体性(やる気)を伴った題材は能動的な題材といえます。

色の魅力や面白さは生徒のやる気を引き出すトリガーになります。

今回は僕なりに考える魅力に加えて、実技研修や授業で「色相環」を取り扱ったときの実践の紹介も入れながら「色相環」の魅力をお伝えします。

それではいってみましょう〜

目次

中学生の主体性(やる気)を刺激する色の3つの魅力

僕たちの身の回りにあるものは全て「色」と「形」で成り立っています。

なので、図工や美術では造形要素として「色」や「形」を大切にしています。

色は我々の身の回りにあって多くの人にとって当たり前のものとして捉えられているので、美術の授業でそもそも「色」とはなんぞや?なんて考える人は少ないと思います。

しかし、改めて考えてみると面白い。

どうやって僕たちは色を色として認識しているのか。

これは言い換えると、僕たちはどのようにして「世界」をみているのか、ということにもなります。

眼球から光が入ると、光信号が電気信号に変換されて脳が色を認識します。

ここで色として捉えている光とは、光が物質に当たった際にその物質に吸収されずに反射されたもの。

つまり、吸収されなかった光を色として認識しているのです。

この宇宙には実に様々な光線が存在しているのですが、一般的に我々が色として認識できるのは「可視光線」と呼ばれる範囲のもの。

東邦大学理学部生物分子科学科のサイトより抜粋

実に狭い範囲ですよね笑

僕たちが当たり前のように「みている」世界は、こんな限られた範囲の中だけのものなんです。

これだけ狭い範囲の光しか認識できないということもさることながら、僕が特に面白いと感じているのは、そもそも人は同じ「色」をみていない可能性があるということです。

魅力その1:黄色は幻覚!人は同じ「世界」をみていない!?

これはどういうことか。

それは、僕が「真っ赤」と思う色が、他の人からみると「真っ赤ではない」可能性があるということです。

これは赤色だけに限りません。

このことに関して、脳科学者の池谷祐二さんがわかりやすく解説してくれています。
(2:24〜9:15あたりをご覧ください。)

【脳科学の達人】池谷祐二【第38回日本神経科学大会 市民公開講座】より

動画を見ましたか?

これにはびっくりしました。

「赤」を捉える吸光スペクトラムの最大波長が人によって異なる。

そして「黄色」は幻覚って笑

右目で「赤」、左目で「緑」をみると「黄色」になる不思議。

自分でもやってみたけど、きっちり区切ることが難しくて「黄色」に見える体験はまだできていませんが笑

そんなことより、、、、

ということは、僕がみている「世界」は、僕自身の感覚でみているだけであって、それが僕以外の人と共有されているわけではないということのほうが衝撃でしたね。

みんなが自分と同じ世界をみているという前提(思い込み)が覆される。

「現実世界」が5感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)で捉えられたものであると仮定するなら、「現実世界」の有り様は人によって異なると考えることもできます。

これを図工や美術科で考え直すと、みている世界が違うという前提を受け入れるならば、児童・生徒が表す作品についても見方や感じ方が変わってくるのではないでしょうか。

僕は児童・生徒の作品について、より共感的に捉えることができると感じています。

少なくとも自分の価値や考えを押しつけるようなことは少なくなるような気がします。

みんな違っていい、というよりもみんな違うことが当たり前となると、もっと優しくなれそうです(^_^)

色の魅力その2:「赤」「青」「緑」でほんとに全ての色が見えるの?

あと、黄色は幻覚と池谷さんは言い切っていますが、黄色だけでなく他の色も「赤」「青」「緑」だけで見えるの?という単純な疑問も残ります。

この疑問に対する答えを示す面白い動画がありました。

NHK for School『大科学実験』の1:00〜3:08あたりをご覧ください。

テレビやディスプレイの構造をよりわかりやすく解説してくれています。

これをみると、「赤」「青」「緑」の組み合わせや濃淡で、それ以外の色を僕たちはしっかりと認識できているんだなぁと感じました。

でもこれも黄色同じものだと考えると、ますます誰もが「同じ世界」をみているとは断言できなくなりますね。

色の魅力その3:限りなく「真っっっっっっ黒」はどう見える?

物質から反射した光信号を我々は色として読み取っていると上述しました。

その理屈で言うと、白は全ての光を反射しています。

白色は膨張色とも言われますが、全ての光を反射していると考えると「膨らんでみえやすい」という現象とつながりやすいですね。

パステルカラーと呼ばれるものもそうかもしれません。

逆に黒色は、全ての光を吸収している色です。

だから、締まってみえる。

引き締めたいときは黒に近い暗い色のものを選ぶのもいいかもしれません。

とはいえ、黒色が全ての色を吸収しているといっても、厳密にいえば100%吸収しているとは言えません。

同じ「黒色」を謳っていても、塗料や画材の種類によって黒色の見え方が違います。

実は、光を100%吸収する塗料はまだ開発されていません。

なので、僕たちは100%真っ黒という色を見たことがないのです。

100%光を吸収する「真っ黒」はどんなものなのか。

2014年に限りなく「黒」に近いベンタブラックという塗料が発表されました。

それは、可視光線を99.965%吸収するそうです。

下の写真をご覧ください。

これはくしゃくしゃにしたアルミホイルにベンタブラックを塗ったものです。

ウィキペディア(https://ja.wikipedia.org/wiki/ベンタブラック)より抜粋

写真でみてもわかるように、「真っ黒」は光を反射しないので、そこにアルミホイルの凸凹したテクスチュアを視覚的に捉えることができません。

そこにぽっかり穴が空いているかのように見えます。

見ていてすごく違和感がある笑

その後、KoProという日本の会社によって「黒色無双」や「真・黒色無双」といった塗料や「太黒門」という布を開発されました。

真・黒色無双は光吸収率99.4%の水性塗料です。

これらはAmazonで気軽に購入できます。

このような塗料を使って実際に「まっっっ黒」を体験してみるも面白いかもしれません(^_^)

いや〜色って本当に面白いですよね。(昔の映画解説の人みたいやけど笑)

こうした魅力や面白さを生徒に伝えるだけでも、生徒の色に対する印象を大きく変えることができます。

生徒の好奇心をつつくことができればいいのです。

今回は、僕が素直に面白いと感じたことだけを取り上げてみました。

勿論、まだまだ僕の知らない色の魅力はそこかしこにあることでしょう。

まずは指導者自身が色の魅力を深掘りしてみることをオススメします。

そうして発見した色の魅力は生徒の好奇心をくすぐり、主体性(やる気)を引き出します。

主体性を引き出す題材のコツについては過去記事もご参照ください。

では、次に色相環を題材にした実践をご紹介しましょう。

授業実践:「100色の環」とは

この題材は、愛媛県の現職教員を対象とした研修や、愛媛大学の授業で実践したものです。

題材の概要は下記の通りです。

題材名:「100の色の環」
準備物:はさみ・カラー雑誌(たくさん)・90cm×90cm×2cm(WDH)のスチロール板※(グループの数だけ)・色がついている文房具などの小物(あれば)
※スチロール版は背景として使っているので、スチレンボードなどでも可
時間:90分から120分程度
内容:
・色の魅力についてスライドで解説。
・その後、「100の色の環」を4人程度のグループになって「色の環」を作成。
・作成方法は、カラー雑誌から色を切出して、スチロールの板の上に環になるように並べていく(接着しない)。
・その際、色相環の例を示して、環の大まかな構成を伝える。
・色はカラー雑誌に限らず、手元にある文房具などの小物でも可。最後に、「色の環」の映える写真を撮影。

おおよそ、このような感じですすめました。

色の魅力については主に上述した内容をスライドで示しています。

活動はカラー雑誌から色を切り取って色相環を作成するといういたってシンプルな内容です。

こんなシンプルな内容でも、事前に色の魅力を伝えておくと、色について自分なりに考えたり感じたりしながら主体的に活動を進めていくことができます。

出来上がった作品はこんな感じです。

グループ1の作品
グループ2の作品
グループ3の作品
グループ4の作品

そして、この活動では僕自身も色に対する気づきがたくさん生まれました。

「色相環」の授業から得られた3つの気づき

この実践を通して僕自身が面白いなと感じたことは様々ありますが、そのうちの3つをご紹介します。

環が自然と重層的になる

これはどういうことか。

上記の作品写真でみてもわかるように、できた環は一層だけではなく自然と重層的になります。

並べていくと、どうしてもピッタリ当てはまらない色味が出てくるからです。

それは、色の彩度や明度が違うから。

活動の前には、彩度や明度などの情報は一切伝えていませんでした。

彩度や明度という言葉を知らなくても、「なんか違う」と感じるのです。

そして、重層的にすることで彩度や明度を自然と分けて考えるようになります。

知識として彩度・明度を「憶える」のではなく、活動を通して自分で気付くのです。

これが図工や美術での「知識及び技能」という観点の特徴ですね。

教え込むのではなく、造形的な活動を通して自ら気付き学ぶ。

実は、この活動をするまで重層的になるとくことを僕自身が想像できていなかったので、僕自身にとっても大きな気づきとなりました。

思考的(言語的)な考え方と感覚的(非言語的)な捉え方

そして、色の適切な配置は思考的(言語的)に考えるだけでなく、感覚的(非言語的)に捉えているということもわかりました。

まず授業では、色を配置していく過程で下記の色相環をスライドで表示しておきました。

武蔵野美術大学 造形ファイルから抜粋

このガイドから「赤と黄色の間には橙色」が入るなど、どの色がどのあたりに収まりそうかを大まかに考えていくことになります。

ここまでは思考的(言語的)に考えています。

しかし、雑誌から切り抜く色にはガイドと全く同じ色がありません。

同じような色を探すことになります。

なので、なんとなくこの色はこの辺かな?という感じで、まるでパズルのピースを確認するように色の配置を感覚的(非言語的)に捉えていくことになります。

このパズルを当てはめるように感覚的に捉えていることが面白い。

感覚的に捉えているときの意識のベクトルは、内側(自分自身)に向けられています。

「パチっとはまるかな?」
「もう少し左のほうかな?」
「なんか違うな・・・」

など、外側(色の配置)に意識を向けているようでも、「どの色がどの辺にあてはまるか」を模索しているときの意識は自分の内側に向いています。

スッキリはまるケースもあればモヤモヤが残るケースもあります。

ここで興味深かったのは、こうした感覚はもともと各人に備えられているのではないか、ということです。

めっちゃ推論の域を出ませんが笑

色だけでなく、「なんとなくこっちのほうがいい/悪い」と考えるときの意識は自分の中にある何かとのマッチングを模索しているような気がするのです。

もちろん、個人の経験や知識によっても大きく左右されてしまいますが。

言葉によらない感覚、直感のようなもの。

この言葉に依らない感覚を研ぎ澄ませていくことは、美術では重要です。

なので、「100の色の環」の活動は自らの感覚を研ぎ澄ませていく面白さもあるのだと気付きました。

色と色の間に広がる無限

ガイドに示した色相環では、「赤色」「橙色」「黄色」など明確に分かれています。

しかし、カラー雑誌から色を探すようにすると、「赤色」にもいろんな赤色があることに気付きます。

その境界線は至極曖昧。

色と色の明確な境界線は探せば探すほどにみつからない。

「赤色」は1つしかないような印象を受けてしまいます。

しかし、現実の世界はそうではありません。

橙色に近い赤もあれば、紫色に近い赤もあります。

ましてや、人によってその見え方も違うとなると際限がありません。

色についてこのような知識を持っていると、絵の描き方やものを観察するときにも様々な気づきが生まれます。

例えば赤いリンゴを描く際に、「赤色」に無限の幅があることを知っていれば色の表し方が多様になり、色に深みが生まれやすくなる、、、かもしれない。

これも僕の推論の域を出ませんが(^_^;)

色と色にある無限の広がりに気づけるのもこの活動の特色のひとつといえます。

このように、「100色の環」の活動では、色への知識の広がりと深まりを期待できるだけでなく、感覚的な捉え方や、色についての認識そのものの変容なども期待できます。

上述したこと以外にも、映え写真を撮る過程では「光」や「構図」、「背景」などを意識させることもできます。

色の環そのものの美しさに気付くこともあるでしょう。

グループによって環のつくりかたの違いを知るもできます。

おそらく、僕が気付いていないだけで、まだまだ多くの学びの可能性を秘めていることでしょう。

この活動は実践としても難しいことは何もありません。

なので、興味を持たれた方は是非実践してみてください。

まとめ

いかがだったでしょうか?

今回は「色相環」に焦点を絞って色の魅力や授業実践について紹介してきました。

僕個人としては、めっちゃ面白い題材やな〜と自画自賛してます笑

特に、自分の中の感覚を頼りにした色のパズルを楽しむところとか。

明度や彩度の存在に自ずと気付くところとか。

色についての題材を、ただ知識を詰め込むだけの時間にするのはもったいない。

こうした実践を取り入れて、実感を伴った知識として色の学習をしてみてはいかがでしょうか?

今回はここまで。

最後までお読みいただきありがとうございました。

【参考資料】

・東邦大学理学部生物分子科学科のサイト
https://www.toho-u.ac.jp/sci/biomol/glossary/chem/visible_light.html

・【脳科学の達人】池谷祐二【第38回日本神経科学大会 市民公開講座】
https://www.youtube.com/watch?v=IWit9QzIDBU

・KoPro(光陽オリエントジャパン㈱プロダクト事業部)研究ブログ
https://www.ko-pro.tech/musoublack/

・武蔵野美術大学造形ファイル
http://zokeifile.musabi.ac.jp

※上記いずれも最終閲覧日は2023年3月20日

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